「エマウスのカポエイラにはデンデがある!」

Kikuko



この文章は汎アマゾニア日伯協会会報「パンアマゾニア」第249号(2008.3)掲載されたエッセイの日本語訳です



 私のカポエイラ・アンゴラの先生は、「デンデがある」という言葉は、「そこに何かとても良いものがある」という意味だ、と教えてくれました。パラ州べレン市で、子どもたちとカポエイラ・アンゴラをした経験は、私にとってとても大切で、特別なものです。

 私は、パラ州と姉妹州である、千葉県に生まれ育ちました。2007年にブラジルを旅行し、6ヶ月間、現地NGOのエマウス共和国運動でボランティア研修をしました。エマウスは、社会教育のNGOで、職業訓練や芸術教育、情操教育の為の様々なプログラムで、たくさんの子ども達と青年達を助けています。

私が日本を離れる時、私は子どもたちと一緒にカポエイラを練習することに強い関心を持っていました。というのも、私は日本でカポエイラをはじめており、カポエイラと子どもが大好きだったからです。私は、エマウスにはカポエイラの教室があるということを知っており、そこで子どもたちと一緒に練習をするのをとても楽しみにしていました。しかし、私は、カポエイラの授業の中で、自分がどのように手伝いをすることができるかは、わかりませんでした。私がべレンに着いた2007年の6月には、エマウスはちょうど、カポエイラ・アンゴラの先生たちを呼び、彼らによる新しい教室を始めているところでした。私は、その教室に参加することになりました。

 教室に参加し始めてすぐに、私はその難しさに気がつきました。子どもたちは、あまりに元気すぎて、カポエイラをするよりも遊ぶことに夢中でした。先生たちは、カポエイラを教え始める前に、子どもたちの悪ふざけを止める為のたくさんの仕事がありました。ほとんど毎回、子どもたちは練習をせずに教室内で遊びまわり、大騒ぎをしていました。他の子どもは勝手に教室を出て行ったり、カポエイラの輪(ゲームをするための円陣)の中で寝転がったりしていました。私は、今までにカポエイラの輪の中で寝転がる人を見たことがありませんでした。それは、大相撲の力士が土俵の中で寝転がっているようなものです、私には想像もできないことでした。

それでも、いくつかの良い事も見つけることができました。何人かの男の子たちは既にカポエイラの動きを知っており、彼はとても良い動きをしていました。たくさんの子どもたちが、上手にカポエイラをする可能性を持っていました。特に、音楽について言えば、子ども達の楽器の習得の早さには本当に驚きました。男の子だけでなく、女の子でも、上手にゲームをし、楽器や歌もできる子がいました。
ある時私は、エマウスの教育者とカポエイラの先生たちと話をしました。彼らは私に、子どもたちが抱える問題を話してくれました。ある子は路上で長い間仕事をしており、他の子は、今でも家庭内暴力に苦しんでいました。そのような経験やリスクのある状況の為に、たくさんの子ども達が、挨拶や落ち着き、グループ行動など、本来全ての子どもたちに必要であるはずの大切なことを学ぶ機会を逃しているのでした。私はとても悲しくなりました、そして、彼らがカポエイラをもっと好きになることを望みました、なぜなら、私は、子どもたちがカポエイラの授業を通して、たくさんのことを学べるということを信じていたからです。

 カポエイラの先生たちは、いつもカポエイラ・アンゴラの美しい動きを子どもたちに見せ、教えようとしていました。同時に彼らは、子どもたちの人生の為にも、友達や先生を尊敬する気持ち、心の強さ、健康の大切さを教えていました。また、カポエイラ・アンゴラの歴史や伝統的な歌についても教えていました。私は、授業が子どもたちのどんちゃん騒ぎにならないようにする手伝いをしました。授業が始まる前は、いつもほうきで教室を掃除し、子どもたちにむかって叫んでいました「教室でサンダルは脱いで!!」。

 少しずつ、子どもたちはカポエイラに興味を持ち始め、練習したいという気持ちを持ち始めていました。私自身もまた、カポエイラ・アンゴラを学びたいという気持ちが強くなりました。私達は、カポエイラ・アンゴラの動きの為の姿勢と、二人組で行う何種類もの組み手や音楽を学びました。


10月に、私たちは始めて、ホーダと呼ばれる正式な試合をしました。子どもたちは、他の友達や教育者たちの前で先生とゲームをしました。全員が、それまでに学んだ動きを使って、上手にゲームをしていました。11月には、ズンビの日にちなんで、小さな発表を行い、みんなの前で楽器を演奏しました。彼らは緊張しながらも、上手に歌って演奏していました。6歳の小さな男の子が、間違えずにパンディロを叩いていました。

 たくさんの子どもたちがカポエイラ・アンゴラを学ぶようになり、私はとてもうれしかったです。やがて、長く学んでいる生徒たちが、新しい生徒たちの面倒をみるようになりました。教室内の大騒ぎはなかなかなくなりませんでしたが、誰かが教室で遊び始める時、それを注意する子がでてきました。



子どもたちとカポエイラ・アンゴラをする6ヶ月の間に、私自身もまたたくさんのことを学びました。言葉、ブラジル北部での風習、ブラジルの社会での問題、教育の大切さと子どもたちの持つエネルギー、可能性、美しさなどです。

 ひとつ忘れがたいことは、子どもたちのかわいい声で歌う、カポエイラの歌です。彼らの音楽は、いつも私に元気を与えてくれました。彼らはいつも「テン デンデ! テン デンデ! カポエイラジアンゴラ テン デンデ (カポエイラ・アンゴラにはデンデがあるよ!)」という歌を歌っていました。今、ここ日本で、その歌を思い出します。私はいつかまたべレンに戻り、彼らとカポエイラをしたいです。

 エマウスは、子どもと青年達のためのプロジェクトを手伝いたいという人たちを歓迎しています。興味のある方は、ぜひ一度足を運んでみて下さい。






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